<大和格納庫>
「これで本日の模擬訓練を終了します。・・・・・解散!」
「「「ありがとうございました」」」
葵が本日の訓練の終了を告げると今回の担当仕官がいっせいに解散した。
<シャワー室>
「疲れたよぉ〜〜〜〜今日も近衛総隊長に一撃もかすりもしなかった・・・その上終わったあとなんであんな涼しい顔してられるのぉ〜〜〜」
美都里が崩れるようにシャワー室でぼやく。
「それは格の違いってやつじゃないんですか??それだけ美都里さんは余分なところに力を使ってるって事でしょ?」
「綾〜〜言ってくれるわね...あんた真っ先に落とされたじゃないの。」
ジト目で美都里が返すと綾はクスッと笑う。
「そりゃ私は身の程をわきまえてますから♪」
「でも....桜小路大佐とペア組んでるときだったら・・・・私たちなんか瞬殺よ??」
「隊長・・・・よく知ってるんですね〜」「伊達に近衛総隊長の後輩はやってないわよ♪」
「そうですよね〜稲妻のように現れて気がついたときには既に撃墜されている・・・・・まさに電光石火!!同じ女性パイロットとして憬れますよねぇ」
うっとり思い出している綾に飛鈴はちょっと引いてしまった。
「綾.......なんか危ないわよ(−−;;;;」
「そ・・・それはそうと前から思ってたんだけど綾ってアイドルの御影綾に似てるって言われない??」
話の方向を変えようとした美都里の一言は意外な事実を浮かび上がらせた。
「え???私・・・本人ですよ?」「え?・・・・うそ・・・・マジ?」「マジです♪私近衛隊長みたいになりたくって芸能界やめてこっちの世界に来たんです♪」
当然シャワールームが大混乱に陥ったのは言うまでもない。




















少女艦隊戦記
エンジェリック・フリート
外伝弐話”私近衛隊長みたいになりたくって”

<3年前サイド6ー13番地コロニー”スィートウォーター”>
「皆さんこんにちわ〜〜〜♪御影 綾で〜〜す♪今日は私のコンサートに来てくれてどうもありがと〜♪私もめいっぱい歌うから最後まで楽しんでいってくださいね♪」
この日ここ”スィートウォーター”では人気アイドル御影綾のコンサートが行われていた。
「じゃあ1曲目は・・・・・・」
この日綾が歌を歌うことはなかった。彼女が1曲目を歌おうとしたその時、武装テロリスト集団”ブルーコスモス”が機動兵器を伴い会場に乱入占拠してしまったのだ。
「は〜〜〜い皆さんそこまでです。皆さんにはナイスな事に私たちの〜捕虜になっていただきま〜す」
「ちょ・・・・」反論しかけた綾にリーダーと思しき男は鋭い視線を送り黙らせるとニヤリと笑い話を続けた。
「ひじょ〜に申し上げにくいんですけどお嬢さん。貴女に選択の自由はないのですよ,楽しいショーの始まりです・・・最後まで付き合っていただきますよ♪もっとも・・・貴女が最後まで踊り続ける事が出来るかは貴女の運次第ですがね」


<2時間後 聯盟特殊潜入機動部隊”ブルースワット”本部>
惑星”飛鳥”の軌道上にあるステーションコロニーの一つ”青の6号”にブルースワットの本部はある
飛鳥皇国軍の誇るエースペアである桜小路公人少佐と近衛葵中尉は突然のブルースワット司令官の要請を受けここ本部を訪れていた。
「公人・・・・私たちどうしてここに呼ばれたのかしら?」
「わからん・・・・俺達を呼びつけてどうしようって事やら。」
「桜小路少佐入ります。」「近衛中尉入ります。」
「二人とも・・・よくきてくれた」
二人を司令官室で出迎えたのは先日の敗戦の責任を取らされ前線からはずされたZEEKだった。
「おい!ZEEK・・・・・お前どうしてこんなとこで」
「詰め腹さ・・・・まぁ完全な閑職でなかっただけましさ・・・っとそれよりもお前さんたち夫婦を「「夫婦じゃない(わ)!!」」................話の腰をおらんでくれ(^^;;」
相変わらず素直でない二人に苦笑しつつZEEKは咳払いをすると話を戻した。
「2時間前武装テロ組織”ブルーコスモス”が機動兵器”雷電”2個中隊を主軸とする大部隊で”スィートウォーター”でコンサート中のアイドル”御影綾”を人質に立てこもった。犯行声明のほうは......まぁこれを見てくれ。」
「われわれブルーコスモスはおろかにも軍の手先と化したアイドル”御影綾”嬢の身柄をお預かりしていますよ......その辺わかってますか?まぁ月並みですがこちらの要求を呑んでくれないと...御影嬢がどうちゃうか....私は知りませんよ?...ああ...忘れるところでした彼女は”今のところ”無事ですよ...さて...肝心の要求ですが聯盟高等刑務所において不当にも収監されている我々の同志諸君が自由を取り戻すこと...そして新鋭戦艦1隻ほど...なかなかナイスナ取引だと思いませんか? ではお早い結論を首を長くして待っておりますよ...といっても36時間だけですけどね」
「ZEEK先輩!何なんですか?このふざけた声明文は!!規模もそうだけど。要求もむちゃくちゃですね・・・・コンサート中ってことはファンは?」
「会場に居る約1万4千人のファンは現在のところ無事だ....だがこの御影嬢”鬼軍曹”たちに妙に人気があるから...たぶん大勢混じってるだろう.......いつまでもそいつらが黙ってるとは思えないからな・・・・どうなる事やら」
ZEEKは肩をすくめて苦笑した。
「で・・・俺たちにどうしろと?」
「ごく単純♪お前さんたち二人で機動部隊を殲滅してほしい・・・・・・・相手に気取られないためには少数精鋭で行くしかない。お前さんたちが突入すると同時にうちの陸戦特殊部隊が潜入救出を行う手はずになってる。」
「ZEEK先輩?私たちに選択権は??」
「いつものように・・・・ない(ニヤリ)」
葵は士官学校の先輩でもあるZEEKに質問するがZEEKは人の悪いニヤリ笑いで応じ・・・その答えを聞いた葵はがっくりと肩を落としていた。
「無論できる限りの援護はさせてもらう・・・・・中島の次期主力MT”疾風”の先行試作型を2機分捕っておいた。もうパーソナルカラーは塗ってあるぞ。」
「相変わらず手回しが良いって言うか・・・・・・抜け目がないって言うか・・・どうせその”疾風”の戦闘データ取りもかねてるんだろ?」
あきれた公人にZEEKはにやりと笑うと1通の書類を渡した。
「あたりだ〜〜〜賞品は作戦概略書と”疾風”の仕様書だ。・・・・・・・・俺が言うのもなんだがいい機体だぞ”疾風”は」
葵はこぶしを握り締め(こ・・この人は〜〜〜)と額に青筋を立てていたがZEEKはそ知らぬ風であった。

<3時間後 特殊強襲揚陸艦”トゥアハー・デ・ダナン”格納庫>
そのご3人はすぐ特殊強襲揚陸艦”トゥアハー・デ・ダナン”に移りサイド6を目指していた。
「で・・・・・・・・どうだ?”疾風”は」
「不本意だがすばらしいの一言に尽きるな・・・・・・しかしこの艦は戦闘向きの艦じゃないぞ??」
「お前さんたちと制圧部隊が隠密に進入させることができれば勝負はわれわれの勝ちだよ。」
「でも先輩・・・・発見されてしまいませんか??」
「問題ありませんわ♪」「「し・・詩織??(い・・石原??)」」「クスッいつもながら仲がよろしいですわね♪」
相変わらずどこから現れるかわからない詩織の神出鬼没ぶりに公人はあきれ、葵は一人こめかみを押さえていた。
「迂闊だったわ・・・・ZEEK先輩の企みの影に詩織が居ない訳が無いって事をすっかり忘れてたわ。」
「そうだったな・・・しかし石原も昔はああじゃなかったんだが・・・・・やはりZEEKの人格的汚染の結果か??」
二人のボヤキを聞き二人は青筋を立てながら微笑んだ。
「「おまえら・・・・好き勝手言ってくれるな(貴方たち・・・・覚悟はよろしくて?)」」
「「お・おわっ・・・・と・・とりあえず作戦開始のタイミングはいつにするんだ(の)??」」
話をそらそうとする二人にZEEKはニヤリと笑いながら答えた。
「もうまもなく”スィートウォーター”だ・・・本艦は電磁光学迷彩の高速艦だからな、サイド6なら5時間もあれば到着できる。」
「もちろん宇宙航法も無視できますわ♪航路外を進んでますし♪」
それを聞いた公人は青い顔で聞き返すが詩織の答えはあっけらかんとしたものであった。
「デブリは大丈夫なのか??」「艦長さんは優秀な方ですから♪」
自信満々に答える詩織に葵は思わず聞き返した。
「どんな人なの?」「相良さんの奥さんですわ♪」「え〜〜〜〜あの仏頂面の朴念仁の??奥さん??誰よ!それに何時結婚したのよ」
葵は突然の旧友の名と世の不条理さに驚き思わず聞き返す。
「士官学校を出てすぐ結婚したよ..奥さんはすでに大佐さ」
「霧島教官はすでに少将だし...........ま・・・まさか・・・。」
「大正解♪二人とも相変わらずですね♪」「「テスタロッサ教官!!!」」
二人が振り返るとそこには士官学校で銀髪の(アッシュブロンドです!)美少女教官といわれていたテレサ・サガラ(旧姓テスタロッサ)大佐が立っていた。
「じゃあ潜入する特殊部隊って・・・・・」「そう言うこと!久ぶりだな!ご両人!!」「また騒げるわね!」「マオこれから任務だ・・・騒ぐわけではない」
2度目なので心の準備の出来た二人は振り返るとそこにはやはり見知った顔”クルツ・ウェーバー少尉”、”メリッサ・マオ中尉”、”相良宗介少尉”の3人組がたっていた。
「時間がない........任務のスケジュールを伝える。」やはり何時の間にやらテッサ(テレサ大佐の愛称)の横には士官学校の教官の一人であったアンドレイ・カリーニン少佐が立っておりもうすでに任務というより同窓会といった趣と化していた。
「これで珠蓮の奴が居たら本当に同窓会だな・・・・。」「ああ...あいつなら陽同部隊だ」
何気ない公人の呟きにZEEKがしれっと答えると、公人も葵も頭を抱えたくなった.........まったくふざけている。

<”ブルーコスモス”占領司令部>
通称ホール管制室と呼ばれる会場が見渡せる部屋にリーダーは暇そうに綾のほうを見るとソファーに座ったままの綾に語りかけた。
「う〜んやっぱり待つのは性に合いませんね。どうです?お嬢さん...暇つぶしに私とひとつ賭けをしてみませんか?」
「賭け?」「そうです...貴女が無事助け出されるか...それともその可憐な命を散らせるか?チップはあなた自身の命です♪なかなかナイスな賭けだと思いませんか?」
綾はとてつもなく不利なこの賭けに乗るしかなかった........(私..何にも出来ないの?)綾は自分の無力さに苛まれるばかりだった。
「では....(ドガガ〜〜〜ン)何事ですか..騒々しいですよ」
リーダーがインターフォンに問いかけると部下の一人が切羽詰った様子で返してきた。
「聯合の奴らが攻めて来ました!!」
リーダーは連絡を受け取るとニヤリと笑いこう呟いた
「ジャストタイミング♪どこの馬鹿か知りませんがナイスなタイミングで現れてくれました♪」
「な・・・何を言ってるの?」「It's Show Time♪お付き合い願いますよ?お嬢さん♪」「は・・・離してください!!」
リーダーは綾の手を掴むと引きずるように部屋の外に連れ出すのだった。


<奇襲部隊”葵機”>
ZEEKは2個中隊32機をいくら新鋭機があるといってもたった二騎で倒せ、しかも施設に損害を与えるななどと言う無理難題を出してきた。無論そうでなければ奇襲の意味がないのだから。
「まったくZEEK先輩も無茶言ってくれるわ........でも私たちにしか出来ないって事よね。」
『そういうことだな......奴らしい無謀で信頼性のかけらも無い作戦だが.......成功率だけが馬鹿高い.......っと8機目!』「どちらにせよ私たちなら出来るだろって挑発してるのよね?.......12機目っと.....失敗したら何やらされるかわかったものじゃないわ。」『全くだ』
二人は無駄口を叩きながらも迎撃機を落としてゆく。敵機もすぐに半分に減り.......さらにまた半分が戦線離脱寸前であった。

<ブルーコスモス隊長機ハンガー>
「なんです?なんですかあの2機は!!!鹵獲するつもりでおびき寄せた新鋭機に逆に袋叩き??ふざけてます!ふざけ過ぎです!!!」リーダーはあまりに無茶苦茶で一方的な二人の戦闘に錯乱を始めていた。
(すごい!あの蒼と黒の2機.........なんだか踊ってるみたい........)
その一方で綾は二人の戦闘機動に魅入られたかのように見つめていた。それほどまでに二人の機動は美しかった。
「リーダー..........どうしますか?」「どうするかじゃないだろう!来い!」「キャッ」
あまりに投げやりな部下の言葉に切れたリーダーは綾を自機のカプセルに放り込むと自らもコクピットにその身を沈めた。
「奴らが...いかに強かろうと我々の優位が翻ることがないことを教えてやるだけです・・・・・。」


<奇襲部隊”葵機”>
攻撃開始から10分.....ブルーコスモスの機動兵器はすでにあらかた掃討されていた。
葵機はコンサート会場上空300mに滞空し周囲警戒をしていた。
「なんだかあっけなかったわね・・・・・・・・・後は占領地の直掩機だけみたいよ」
『所詮は正規の訓練を受けれなかった奴らさ....だが油断は禁物だぞ』
「わかってるわ・・・公人」
『そこまでです!蒼と黒の機体!』
葵達の前に現れたのはブルーコスモスのリーダーの駆る”雷電カスタム”であった、鈍重なイメージを受ける雷電を精悍な三日月をつけた鎧武者に見えるほど切り詰めたそのカスタム化には余程の技術者がかかわったのであろう、危険な気配に葵達は思わず身構えてしまった。
「誰!」『ふっ......貴方がたは我々に人質が居ることをお忘れのようだ、おとなしくその機体を明け渡して降参してくれないと...このお嬢さんがどうなっても知りませんよ?』
雷電カスタムはなにやら透明なカプセルを握っており中には少女が閉じ込められていた・・・綾である・・・敵は綾を簡単に握りつぶせるのだ・・・。
「くっ卑怯よ!!」『卑怯で結構!要は最後に笑っているのであれば手段は問われないんですよ?そんな事も知らないんですか?』「なっ」
敵のあまりのいいように葵が絶句していると葵の通信コンソールの横に2つ電文が入っていた。
『何をしてるんですか?さっさと出てきなさい!!』「(2人とも・・・頼んだわよ・・)解ったわ」
そう言うと葵はコックピットのハッチをオープンにした。
『女?』「そうよ?悪いかしら?」『これは傑作だ......我々を壊滅に追い込んだ2機のうち1機のパイロットが女!!!しかも若い女!!!馬鹿にして!!!ん?もう一騎の黒い機体はどこだ?』「知らないわよ」不意に公人機が居ないのに気がついたリーダーは葵に詰め寄る。
『知らないはずは無い!!こっちの人質は死んでもいいんだな!!僕は気が短いんだ!!さぁ!答えろ!!』
リーダーが綾のカプセルを葵機に突き出した瞬間、下方より飛び出した火線が雷電カスタムの肘間接を打ち抜いた.......動力を失った右アクチュエーターは力を失い綾のカプセルは下方に落下をはじめる。
(今だ!)葵機の白刃が煌き上下逆になった綾のカプセルの床部分(今は天井)を切り落とす。
カプセルの中の綾をコックピットの中に保護するのと綾の入っていたカプセルが爆発するのは・・ほぼ同時に起こった。

綾は何が起こったのか理解できないまま気が付くと長身の女性の胸元に抱きかかられていた。(な・・何が起こったの?)綾はすっぱりパニックに陥っていたが「それだけ元気があれば大丈夫ね!悪いけどまだ落ち着いてるひまはないの!歯を食いしばってなさい!」その長身の女性の凛とした声を聞いた時自分が助かったことをはじめて知った。
『葵〜どうだ?俺の腕は!』「さっすがクルツ君...いい腕ね♪.....まさか地上の装甲竜騎兵からの狙撃であんな精密射撃が出来るとは思わなかったわ♪」『惚れたか?』「残念ね私に公人が居なければ惚れたかも?」『はっははは違いねぇ』『近衛......地上の制圧は完了した。』「相良君もさすがね.....。」『『「あとは公人(桜小路)だけだね」』』
期せずして3人は上空を見上げた

<雷電カスタム コックピット>
「何が起こったというんですか!!何が!!!」
それは一瞬のことであった、下方から不意打ちで狙撃され・・人質を失った・・・それと同時に例の黒い機体が襲い掛かってきたのだ。
「でも!!こんなことで落とされる私ではありませんよ!!」
そうなんとこの男、聯合最強のパイロット”黒龍”の斬撃をかわしたのだ!...しかしそれはこの男の腕ではなかった、それは.............。
『ようやく見つけましたわ!泥棒さん?.......私のかわいい”ギルガザムネ”をよくも盗んでくださいましたわね』
「なに!」そのモニター一杯に映し出された紅毛の女性は普段決して見ることのできない冷ややかな笑みを浮かべながらその冷たい視線をリーダーに投げかけていた。
『その上”ギルガザムネ”を使って犯罪を犯すなんて、その罪万死に値しますわ......手柄は公人さんにお譲りするとしてあなたには永遠の悪夢を見ていただくことにしますわ...おやすみなさい愚か者さん』
女性は男に一切の反論を許さず通信ウィンドウが閉じた。..それと同時にコックピット内に男の絶叫が響き渡った。

<公人機>
「ん?どうしたんだ?」
今まで人間業とも思えない動きで斬撃をかわしつづけていた機体が急に動きが緩慢になったのだ。
「なんだか知らんが!チャンスだな!!!秘剣六連崩し(むずらくずし)!!」
緩慢になった敵機はその強烈な攻撃に避ける事さえ出来ずコックピットブロックを残し機体は崩壊した。
『あら.........私の分はとっておいてくれなかったの?』
「葵か......ああ.........手ごわい相手だったよ全ての斬撃がかわされる経験なんて...あまりしたくは無いな。」
『うそ?』「残念ながら本当だ、機体性能なのかパイロットの腕なのかはわからんが」
驚く葵に公人は憮然とした顔で答える。
『何かあったの?』「誰かに助けられたらしい」『どういうこと?』「戦闘中に敵の動きが急に緩慢になった」『そう......でも答えはコックピットの中にありそうね』「どういうことだ?」
そこに映し出されたものはコックピットの中で「紅が.....紅が....」とうつろな瞳でつぶやきつづけるブルーコスモスのリーダー”告死天使”の哀れな姿であった。
「石原か.......という事はこの機体も......」『間違いなく詩織の作品ね............』「そうか...」
葵の哀れむような視線を受けながら公人は背中に冷たい汗が滴り落ちるのを感じ取っていた。
(すまん...茉莉慧....今度は帰れそうも無い.........至らぬ兄を許してくれ........)

<葵機コックピット>
「終わったわ...よくがんばったわね。」
一時的にパニックに陥ってはいたがすぐに落ち着きかつ自分の荒い操縦に耐え切った少女に葵は最大限の賛辞と共に最高の微笑を送った。
「あ...はい(なんて綺麗な人........私いけない道に走っちゃいそうです)」
葵の微笑みに顔を真っ赤にした綾ではあった...無論その危ない考えに葵はきがついてはいなかった。
「軍からの要請もあると思うけど・・・今度の事はできる限り穏便に済ませたいの。」
「はい...安心したら.....眠くなってきてしまいました。」
「もう危険は無いわ......安心してお休みなさい....。」
綾はそのまま崩れるように眠りについた。

<現在−大和シャワールーム>
「と...言うわけで近衛隊長に助けられて........憧れて予科練の門をくぐったんですけど。」
「そこに教官として赴任してきたのが近衛先輩だったというわけね。」
「そうなんです、なんか運命を感じちゃいますよね」
うっとりする綾に二人はやはり若干引き気味であった)
「先輩に聞いたことがあるわ...素質はあるけど扱いが非常に厄介な生徒が居るって....あれって綾のことだったのね。」
飛鈴が納得したようにつぶやく
「でも綾が本当に御影綾だったなんて知らなかったなぁ...だって最近だってテレビに出演してたよ?」
美都里の疑問に綾は簡単に答えた。
「私が次に気が付いたのは”デ・ダナン”の医務室だったんですけど......そこでお会いしたのが。」
「「石原博士!」」
口をそろえる二人に綾はきょとんとするがすぐに「よくわかりましたね」とにっこり微笑んだ..それは天使の笑みであった。そしてシャワールームは軽やかな笑いに包まれた。




<補足-3年前特殊強襲揚陸艦”トゥアハー・デ・ダナン”格納庫>
「お帰りなさいまし♪」
帰還した公人と葵を待っていたのは痛いほどの満面の微笑を浮かべながら額に青筋を立てている詩織であった。
「「た...ただいま(汗)」」
「いくら手ごわいとはいえ何もあそこまで破壊しなくてもよろしいでしょうに♪」
「し..知らなかったんだ(汗)」
「ええ..そうでしょうとも........知っていたら私のかわいい”ギルガザムネ”がここまで酷くなることは無いでしょうから♪」
「.........すまん」
おたおたする二人に詩織はくすっと笑うと
「とりあえず今度の事件でデータが得られたバイオリレーションシステムの追加試験に付き合っていただきますのでそのおつもりで...葵...申し訳ないけど公人さんをお借りしますわよ♪」
公人は詩織にまんまとはめられたことを、葵はからかわれた事をその時になってはじめて知った。
「「詩織も(石原も)これが無ければいい娘(奴)なのに.....」」二人のつぶやきは広い格納庫にやけに大きく響いた。












続く?