<ラグナロク司令長官室>
バチィィィィィィィィィィィィィィィィン!
「同じ事を言って兄は死にかけました!大佐!クリームさんを残して逝かれるおつもりですか?大罪人の妹として!」
茉莉慧の悲痛な魂の叫びはノイエを愕然とさせるのに十分であった。
そしてどれくらいの沈黙がすぎたであろう。
「フロイライン・・」
「っ....わた..私.....済みません!!失礼します!!」
ノイエの絞り出すような呟きにはっと我に返った茉莉慧は自分のやったことに気が付きまくしたてるように謝ると部屋を飛び出していった......そしてノイエはそれを呆然と眺める事しかできなかった






















少女艦隊戦記
エンジェリック・フリート
第参拾九話 ”騎士の義務”

<ラグナロク艦橋>
......長官公室の顛末がメインモニターに大写しにされたラグナロクの艦橋は深い沈黙につつまれていた。
「.......あの茉莉慧ちゃんが殿方をひっぱたくなんて.....。」
「.....そうね......。」
『詩織お姉さん、葵お姉さん....。』
「なあに?鈴ちゃん?」
ようやく呟いた詩織と葵に鈴は問いかけた。
『どうしてここで見ようとしたですか?』
今の艦橋の有様を演出したこの二人の女性士官に鈴は抗議の視線を送る。
「やっぱ...気になるでしょ?......それに....。」
『それに?』
「クリームちゃんも関係者の上にここの管理者だから頼むしかないでしょ?」
『......(ジト目)』
「クスッ....まあ良いわ...詩織は茉莉慧をお願い....私は.........あの分からず屋の盲を開いてくるわ。」
鈴の視線に葵はクスッと微笑むと大げさに振る舞い....憮然とした視線の中艦橋を悠然と去った。
「葵を......責めないで下さいましね?....たぶん葵も私も同じ気持ちですもの....まさか茉莉慧ちゃんがあそこまでの行動に出るなんて.....思いも寄りませんでしたけれど。」
「どう言う事ですか?詩織さん」
すぐそばにいたクリームが不思議そうに詩織に聞き返す。
「茉莉慧ちゃんは人をひっぱたくなんてする娘じゃないのですもの・・・・私も初めて見ましたわ.....。」
そして詩織はメインモニターのウィンドウを自然な動作で閉じた。


<ラグナロク司令長官室>
ノイエ大佐は未だ呆然と出口の方を眺めていた。
「らしくないわね.......貴方わざとひっぱたかれたでしょ?」
いつの間にか入り口には葵が腕を組んだままもたれかかっていた。
「フッ.....蒼い...稲妻か......。」
葵の問いかけに我に返ったノイエは自嘲気味に答えを返した。
「避けられなかったんだよ.....流石は黒龍の妹...か。」
「貴方ねぇ......。いいこと?いっとくけど茉莉慧は普通の娘よ....誰がなんと言おうとね!!!あの子を特別な子だって避けることは絶対許さないから!!!」
「.......どういう意味だ?」
いきり立ってしまった葵は自分がよけいなことを言ってしまった事に気が付き一瞬しまったっと言う顔をするが....平然と言ってのけた。
「知ってるんでしょ?.....演習の時..貴方達の別動艦隊を沈黙させたのは茉莉慧の呪術だって事ぐらい。」
「ああ.......報告は...聞いている....だがそれがどうしたというのだ?」
葵は驚愕の表情を浮かべ....すぐに思い至った。
「そっか.........クリームちゃんも....能力者なのね.....同じ発掘戦艦の巫女......思い至るべきだったわ。」
納得する葵の呟きに今度はノイエが驚く。
「近衛!それをどうして!」
「同じなのよ....。」「同じ?」
「そう...貴方とクリームちゃんの関係が公人と茉莉慧の関係に...。」
「つまり・・あのフロイラインも尋常ならざる力の持ち主だと...。」
「そうよ....人は己にない力を持った者を恐れ避けるわ....そして茉莉慧は始祖始まって以来と言われる程の呪力を幼少の頃から既に持っていた...それは周りを恐れさせるのに充分だった。皆があの子を避けるあまりあの子は心を閉ざしそうになってしまった....そんなあの子を支えて来たのはひとえに公人の努力があったればこそ.....もっともあの娘ったら酷いブラコンになっちゃって大変だったわ。」
葵は懐かしむように語る.....。
「たぶんあの娘はクリームちゃんが自分と同じであることに気が付いていたのね.....そして先日の公人と.....貴方が重なったんじゃない?」
「お前達の目の前で散りそうになったそうだな。」
落ち着きを取り戻したノイエは葵に返す。
「ええ.....あのときは本当に死んだんじゃないかって思ったわ.....だからこそクリームちゃんを残して勝手にしに急ぐ貴方が許せなかったのよ.......とはいえまさかひっぱたくとはね...。」
「そんなに意外なのか?」
やれやれといった風にぼやく葵は憮然とした表情で聞き返すノイエに意地悪げにニヤリと笑うと宣言するように答えた。
「少なくとも私が知ってる限りで貴方が1人目よ!あの気弱な娘がひっぱたくなんて出来るわけ無いじゃない!」
それを聞いたノイエはふっと笑うと外へ向かって歩き出した。
「どちらへ?大佐殿」
おどけるように質問を送る葵にノイエは何か吹っ切れたような・・・晴れやかな顔で答えた。
「あのフロイラインに礼を言ってくる。」「あら..どうしてですの?」
「私は死に場所を失った無様な男だ.....だがまだ護るべき者があることを再確認させてもらった.....ついでだから卿にも礼を言っておくことにするよ...蒼き稲妻..いや近衛少佐」「あら?私はついでなの?」
意地悪げにいう葵にノイエはニヤリと笑いこう答えた。
「当然だ...売約済みに媚びを売っても仕方ないからな。」
「銀の騎士がプレイボーイだなんて寡聞にして知らなかったわ」
「当然だ.....騎士は見目麗しき乙女を護るのも義務だからな。」
葵は満足げに頷くとノイエを促した。
「じゃあ振られに行ってらっしゃい....茉莉慧は能楽堂よ。」
見送る葵にノイエは振り返らずに片手をあげ公室を出ていった。




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あとがき
ZEEK :参拾九話です
茉莉慧  :私って属性どおりいじめられっ娘だったんですね
ZEEK :や〜〜いブラコン
茉莉慧  :少佐のせいでしょうが!!!
ZEEK :でも公人君を葵君に取られて悔しいんだろ?
茉莉慧  :そ・・・そんなことありません.
ZEEK :どもってるどもってる
葵    :で...........私が嫌ってるノイエ大佐のところに言ったのは??
ZEEK :多分茉莉慧君の姉としての義務だろうね
茉莉慧  :あ....葵姉さん...(じ〜ん)
葵    :い..いいじゃないべつに(テレ)
ZEEK :ってことで次回もやってやるぜ!!!(ダッシュ)
葵    :それはそうと作者は感想に飢えてるらしいわ.....できたら”読んだよ”だけでも言ってあげると助かるわ
茉莉慧 :御意見御感想をお待ちしてます♪











続く?