<4時間前 大和格納庫>
巨神達が林立する中異様な雰囲気に包まれた一角がある。
その蒼と漆黒......2体の巨神の前で初老の男が呟く。
「堀越技師がマシンマキシマムを前提にたった2機だけ作り上げた"飛龍”......まさか2体揃った姿を拝めるとは思わなかったぜ...長生きはしてみるもんだ。」
「くすっ・・・・整備の神様と言われた刈谷技術大尉でもそんな想いに囚われる事が有るんですわね」
「よせやい、嬢ちゃんにそんな風に言われたら背中が痒くならぁ」
刈谷大尉と言われた初老の男の呟きに詩織が返すが刈谷大尉は苦笑を返すだけであった。
「でも、”こんなゴツイ機械が弄れるなんて技術者冥利に尽きる”って言ってたのは刈谷さんですわ」
「はははは...ちげぇねえ、だけどよ...こんな殺人マシンを手足のように扱ってる人間が葵穣ちゃん以外にもいるなんてな...話には聞いてたが今でも信じられねぇぜ」
「公人さんですもの♪」「そんなもんかい?..だが整備のほうはなっちゃいねぇな...おい野郎ども!着艦した全機をフルチェックかけるぞ!急げ!もたもたしてっと宇宙空間におっぽり出すぞ!」「「「うぃーっす!」」」
和やかな雰囲気から一転刈谷大尉の号令一下、整備中隊が一斉に作業に入る。
「それではよろしくお願いいたしますわね。」
「おう!まかしときな!完璧な整備で送り出せるようにするぜ」
刈谷は詩織の願いに振り返る事無く片手を挙げ答え自らも整備に取り掛かろうとしていた。
刈谷技術大尉、いくつになってもメカ屋はメカ屋であった。





















少女艦隊戦記
エンジェリック・フリート
第四拾八話 ”一騎打ち(前編)”



<1時間前 大和シミュレータールーム>
「「「はぁはぁはぁはぁはぁ」」」
「お嬢ちゃん達なかなかやるじゃないか...さすがにお嬢に扱かれてるだけの事はあるな」
坂井少尉が良い汗かいたといった風の顔で三人を誉めた。
(((あんなハードな訓練の後にそんなしれっとした顔で言われても・・・・)))
飛鈴、美都里、綾の三人娘は心で叫んで居たが口にするほどの元気は残されていなかった。
彼女達の受けた訓練..それは3対3の鬼ごっこだった、ただ只の鬼ごっこではなかった
追いかける相手は西澤飛曹長、岩本少尉、そして坂井少尉といった黒龍隊でも超ベテランパイロットであった。
彼女達は武器制限無しと言うハンデをもらったにもかかわらず(坂井少尉達は固定武装しか使わない)被撃墜を防ぐ為、逃げ回るので精一杯と言うありさまであった。
結局3時間ほどの激しいデットヒートの末、全機撃墜という結果で終わったが最後まで残ったのは意外にも綾であった、彼女は逃げに徹していた為、幸運にも最後まで生き残ったのであるが所詮は逃げていただけであったため追い詰められての被撃墜であった。
「じゃあ10分の休憩の後もう一度やるぞ」
(((いや〜〜〜〜〜〜)))
繰り返して言うが3人にはすでに返事をするだけの元気は残っていない。
「困りますわ.........今からここ使いますのに。」
「センセイじゃないですかい!」「ええ、西澤さん...お久しぶりですわね」
にこやかな笑顔をを振り撒いて登場した詩織に彼女達は後光がさして見えたことであろう。
「で...何が始まるんですかい?」「とっても素敵なイベントですわ♪」「へぇ〜〜どんなです?」
「銀の騎士と黒龍の一騎打ち.......なかなか見られるカードでは有りませんですぅ」「そいつはすげぇ」
詩織の後をついて説明をしたのは美華であった。
「ラグナロクと大和を情報連結しそこに仮想空間を形成しリアルで広大な戦闘フィールドを作り上げるですぅ....時間が惜しいのでそこのオジサンどくですぅ」
「おいおいオジサンはねえだろう.........ですがセンセイ...俺にはさっぱりでさぁ」
「くすくす・・・鬼の岩本少尉も形無し・・・ですわね・・・ですけれど時間が惜しいのも事実ですわ」
そう言うと詩織と美華はシミュレーターのコンソールにつくと神速のキータイプをはじめた。
「何時見てもセンセイのキータイプには惚れ惚れするねぇ」
誰かの呟きとキータイプの音だけがシミュレーションルームに響いていた。

<2時間前 大和艦橋>
「銀の騎士............貴様ぁ!よりにもよって茉莉慧だと?ゆるさん!!絶対に許さんぞ!」
逆上しかけた公人を止めたのはやはり茉莉慧であった。
「兄様....兄様は負けるつもりなんですか?」
「そんなはず無いだろ?いつか言ったよな..おまえは俺が絶対に守るって」
「はい!守ってくださいね」
不安げな茉莉慧に公人はやさしげに語りかけた、その言葉に茉莉慧の顔も輝く...そしてそのまま二人の世界に入りかけたが、周りの雰囲気はそれを許さなかった。
「......まぁ...あれだけかっこいいお兄様なら無理も無いけど..これは禁断の果実と言う奴だと思うわ」
「楠香もそうおもう?......茉莉慧も不憫よねぇ」
「ハイハイ...二人ともお仕事お仕事」
ぼやく恋と楠香に美瑠が手をたたきながら任務の続行を促す。
「で........おまえさんの事だどうせ手の込んだことをやるんだろ?」
「当然だ.....両陣営の最高クラスのパイロットの一騎打ちだ......ちょうどいいと思わんか?」
バツの悪そうな顔で話をそらす公人にZEEKはニヤリと笑うと意地悪く答え2枚のデータディスクを取り出した。
「それは!!!」
ZEEKの持つデータディスクがなんであるかを理解したノイエは驚愕の表情を浮かべた。
「さすが准将...ご存知でしたか.......これは先ほど岩戸要塞で行われた機種統合会議に提出されたトライアル機の設計データだ........このデータをシミュレーターに入力し2人で戦ってもらう。」
「ZEEKおまえ又俺をダシにするのか.............。」
「シミュレーションデータとはいえ大和とラグナロクのシステムをフルに使ってのシミュレーターだ.....実機のトライアルさながらの過酷なものが出来る.しかも両陣営最高のパイロットでだこれ以上の好条件は有るまい?....無論そのデータをフィードバックし次期主力機の座を争ってもらおう。」
公人の目がきつい物になるが当のZEEKはそ知らぬ顔で当然のように返していた。
「ふっ......やはり艦長は抜け目の無い男だな.....なら...私はスレイプニルを選択しよう帝国の威信にかけて勝利する為に。」
「なら俺は舞姫だな......だが銀の騎士に負ける気など毛頭無い。」
二人はZEEKからデータディスクと受け取ると互いの間に火花を散らせた。
「戦闘開始は3時間後......それまでにデータを頭に入れておいてくれ」
「「了解した」」
「なお、それぞれのサポートに桜小路中尉とノイエ中尉を充てる事にする...両者依存は無いな?」
「「はっはい!!!」」
茉莉慧とクリームが突然声をかけられ慌てて返事をする。両者とも兄の手伝いが出来ると嬉しさ半分、不安半分と言った風であったが任務に精励するためコンソール操作に戻っていた。

<現在 大和シミュレータールーム>
その室内は異様な雰囲気であった公人は10分ほど前から椅子に座った状態で目を閉じ腕を組んでノイエの到着を待っていた。
不意に公人がまぶたを開け呟く「きたか....」その呟きと同時にシミュレータールームの扉が開く。
「逃げずにやってきたようだな。」
「あたりまえだ...黒龍....今度こそ引導を渡してやる」
不適に笑う公人...そしてノイエ.......。
「ルールを説明する、まず1時間を使い機体を習熟してもらう......習熟中はシミュレーターをスタンドアローンモードで実施し時刻がきたらオンラインを開始する。オンライン接続をもってファイト開始とする。両者異存は無いな?」
「「無論だ」」
二人の間に再び火花が散る。
「では両者悔いのないようにな..........ダブルKOも考えられるが決着がつくまでの無制限一本勝負だ」
そして二人はそれぞれのシミュレーターにゆっくりと歩み寄った。
因縁の対決が今始まろうとしている。




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あとがき
ZEEK :四拾八話です
茉莉慧  :どうでもいいですけどいつつくんでしょう
ZEEK  :君達がおとなしくしてくれたらね。
葵    :そんなの面白くないじゃない(^^;;
詩織   :オシヲキを用意しないといけませんわね
茉莉慧 :し...詩織さん(汗)
ZEEK :あうあう
葵    :..........................無様ね
ZEEK :ってことで次回もやってやるぜ!!!(シュタッ)
葵    :それはそうと作者は感想に飢えてるらしいわ.....できたら”読んだよ”だけでも言ってあげると助かるわ
茉莉慧 :御意見御感想をお待ちしてます♪









続く?