<大和戦闘シミュレータ・公人席>
様々な計器が点滅する中、公人は一人操縦桿の感覚を確かめていた。
(銀の騎士と.........一騎打ちか........果たして俺は奴に勝つことが出来るのか?」
『兄様.........』
公人はサブモニタから心配そうに見つめている茉莉慧の顔を見て己の失敗に気がついた。
「口に...出て居たか.....心配するな茉莉慧、俺は....負けはしない、お前と葵の為にな。」
公人は大切な妹に心配をかけてばかりいる自分に自嘲しながらもそれを表に出さぬよう勤めながらやさしく茉莉慧にそして自分に言い聞かせるように語り掛けた。
『はい!御武運をお祈りしていますね!』
「稀代の大陰明術師である茉莉慧が祈ってくれるんだ、負けるわけが無いよ。」
『にっ...兄様....』
ほほを染める茉莉慧を見ながら公人は何時の間にか肩の力が抜けている自分に気がつき、人知れず思った。
(これなら......本当にいけるかもしれないな....銀の騎士よ...目にモノを見せてやる!)
「茉莉慧...サポートはいいからデータの収集だけは確実にやってくれ、このデータはいずれ騎乗する幾多のパイロットの為になるはずだ。」
『解っています、でも私だって兄様のお手伝いくらい出来ます!』
「解っている...解っているさ..茉莉慧.....頼んだぞ!」
『はい!兄様!』
公人は少し頬を膨らませて反論する茉莉慧に微笑むと再び語りかけた。
「あとな......Gキャンセラーをオフにしてくれ、そして浮いた分の制御ユニットの処理タスクを姿勢制御に回してくれ。」
『え?....本気ですか?舞姫は飛龍の2.5倍は負荷がかかるんですよ?』
驚く茉莉慧に公人はさも当然のように答える。
「かまわんさ.......重力制御なんて使ってたら勘が鈍ってしまう。俺は奴に...銀の騎士に勝つために戦うんだ。」
『..........解りました..でもあまりに負荷が掛かり過ぎた時は此方でONにしますからね?』
「ああ....茉莉慧の判断でやってくれ.......さあ時間だ.....奴に勝ちに行こう!」
『はい!兄様!』
細やかな気遣いを見せるようになった妹に嬉しく思いながら公人は力強く宣言をした。





















少女艦隊戦記
エンジェリック・フリート
第四拾九話 ”一騎打ち(後編)”



<大和戦闘シミュレータ・ノイエ席>
『お兄様.....新型機の調子はいかがですか?』
「ああ....なかなか良い性能だ.....さすがに帝国の技術陣はすばらしい。」
『機体スペックだけなら...連盟に負けてますけど....』
スレイプニルを褒めちぎるノイエにクリームは難色を示すが...そんなクリームにノイエは普段からは想像もつかない穏やかな表情でやさしく諭した。
「クリーム・・よく聞くのだ....戦いは機体性能だけで戦うのではない、いかに性能が優れていても肝心のパイロットが付いてこれないのでは意味が無いのだよ、肝心なのは総合バランスで解ってるとは思うが攻撃力、防御力...そして機動力だ...そういう意味ではこのスレイプニルは一撃離脱に徹した強襲機に必要なバランスを高いレベルで実現している.....この機体なら」
『”この機体なら騎士同士の一騎打ちのような戦いが出来る"...ですか?』
「ふっ....さすがは我が妹..よくわかっているな。」
『勿論です♪お兄様の口癖ですもの♪』
得意げに先手を打つクリームにノイエはふっと笑うと出来の良い生徒を誉めるような口調で語った。
『では私は帝国騎士とサムライの戦いを見守らせていただきます、お兄様に大神オーディーンのご加護がありますよう』
「ああ....戦いの勝利はクリーム...お前にささげよう....だがデータの取りこぼしが無いように気をつけるんだぞ?」
『お兄様の意地悪!!!』
頬を膨らます妹を見て笑うノイエ...だが
(だが.......相手は黒龍......奴との決着が...つくものかどうか......やはり結果は神のみぞ知る...か)

そして....戦いの火蓋は切って落とされた。

<仮想空間>
そこは紛れも無く最前戦宙域.......二人が幾度となく刃をかわしたガニメデ監視基地周辺であった。
そしてその映像を見た二人の感想は奇しくも全く同じモノであった。
「「よりによってこことはな........石原(ドクトル)も皮肉が利いているな.....再びここで奴と刃を交えるとは....因縁か?」」
「「まずは...機体のテストだ....そして奴を.....倒す!!!」」


<舞姫 コックピット>
「では往こう....舞姫!」
そう言うと公人はスロットを上げ機体を加速させ始め同時に強烈なGが公人を襲いかかってきた。
「くっ.....か、覚悟はしていたがこれほどまでにきついGとはな....た、確かにこれではGキャンセラーが必要になる訳だ....その上センサー感度が鋭敏過ぎて....くそ!とんでもない機体だ!...だが..このじゃじゃ馬....葵ほどじゃ・・・無い!!!!」
そう言うと公人は更に加速をさせGに自らを馴らすかのように高機動をはじめた。
『兄様....今の葵姉さんが聞いてましたよ....』
「いっ!!!!」
茉莉慧の突っ込みで舞姫があらぬ方向にぶっ飛んだのは言うまでも無い。

<スレイプニル コックピット>
「参る!」
ノイエがスロットを上げたのはやはり公人とほぼ同じタイミングであった。
「い..いい加速だ......」
『お兄様...顔が青ざめれますが大丈夫ですか??』
「ふっ....スレイプニルの加速性は予測以上だ....この名に恥じぬ駿馬があれば....勝てる!」
そう言うとノイエは機種を高機動状態のままアステロイドベルトへ機首を向け突入を開始した...まるで敵陣へ切り込むかのように。
ノイエはその中で襲いくる星屑をものともせず時に打ち落とし、時に変形で回避をしながら通常ではありえないスピードでアステロイドを駆け抜けていく。
「素晴らしい..素晴らしいぞスレイプニル!!」

<30分後>
その場所で二人はお互いの機体を睨み合っていた........その場所は二人が決戦の場に選んだ場所...それはガニメデ監視基地が眼下にある”いつもの”戦場であった。
「やはり....ここか........」
「貴様には負けん!」
いつもの戦場で当然のようにスレイプニルを確認した公人は人知れず叫びながらスロットを目一杯上げ再びすさまじいGの中に身を置く
ほぼ同時にノイエもスロットを上げ最高速に機体を乗せ急速にその距離を縮める
「「一撃で・・・決める!」」
機銃弾をばら撒きながら2体の巨神は互いの小口径弾をものともせずただ一直線に突撃をし....2機が交差する瞬間、2機は光の束を解き放つ!...しかし......インパクトの瞬間は何時までたっても起こらなかった。
「「なにぃ!!!」」
そう互いの機体の相対速度があまりに速かったため凝集光銃の発射までのタイムラグに二人が気がつかなかったのである..だが何時までも呆然としているわけにはいかない
「ならば......」
先に次手を打ったのは公人であった、公人は機体を翻すとランダムに高速移動させ再びスレイプニルに急接近する...見ている者達からは舞姫はその残像で複数に見えたことであろう。
そしてその機体特性(高速巡行モード)故に未だ回頭の終わっていないスレイプニルを捉えたかに見えた...しかしノイエも座して死を待つような男ではなかった。
「パラレルアタックか!..だが対策が無いわけではない!」
迫り来る舞姫にノイエは操縦桿に増設された赤く塗られたボタンを押しさらにすぐ次の動作に移れるように身構えた(.....タイミングが命だな)
「これで終わりだぁぁ!!!!」
公人の操る舞姫の光刃がスレイプニルを捕らえようとしたその時、スレイプニルは側面のウェポンベイから4発の小型ミサイルが射出した。
「甘い!こんな物でわたしが倒せると思ってか!」
公人は不意をついて襲ってきたミサイルを真っ二つに切り捨て更に迫ろうとした...しかし
「なっ何!!!」
ミサイルを切り捨てた瞬間、公人は目の前が真っ白になり目標..スレイプニルを見失っってしまった...そして公人はノイエの意図を知り毒づく
「しまった!閃光弾!!!隙を作ったか!!」
閃光が晴れた時、舞姫のモニターに映ったのはトランスフォームを終え刃を片手に突撃してくるスレイプニルであった。
「これからが本番だ!黒龍!!!!!」
「それでこそ銀の騎士!往くぞ!!」
ガギィィィィィン
二体の巨神はその光刃を今度こそ真正面からぶつけ合った!二体の刃から火花が飛び散る
ガキン!ガキン!
二度三度と刃を交え激しい攻防が繰り返されたがやがて機体の優劣が現れ始めた。
「くっ黒龍の機体は なんて速いのだ!!だが速さだけならまだ!!」
ノイエは尋常でない舞姫の猛攻に次第に防戦一方になってゆく。
「くっ!..なぜこの攻撃が避けられる!銀の騎士の字(あざな)は伊達じゃないということか!!」
一方的な攻撃になりつつあるのにスレイプニルに一撃も有効な攻撃をいまだ出せずにいる自分に苛立ちはじめながら公人は再び剣を振るう......しかしその鋭すぎる斬撃がスレイプニルを傷付ける事は出来きなかった。二人は剣士としての腕が拮抗しているせいで決定的な勝因を欠いているのだ。
戦いは永遠に続くかに見えた、数分だったのかもしれない、数時間だったのかもしれない、二人の主観では永遠とも言える時間が経過し、二人は疲労の限界に達してしまったが誰が攻められよう。
2騎は何とか距離を開けると睨み合いつつつかの間の休息を相手を牽制しつつ行うのがやっとであった。

<舞姫コクピット>
「はぁはぁ....茉莉慧......リミッターを解除して........くれ。」
『え?兄様!危険です!!!』
突然の公人の頼みに茉莉慧は猛然と反発した。
「やはり.....な....はぁはぁ」
『え?』
「茉莉慧......重力制御を...切る代わりに.....リミッターを....設けていたな?」
荒い息のまま問い掛ける公人に対して茉莉慧は沈黙を守った........それが意味するのは"肯定"
「奴に......勝つためには......舞姫の....全ての力を....出し切らなくては.....だめだ。」
『でも...でも兄様は既にぼろぼろじゃないですか!!』
茉莉慧の慟哭に公人はただ黙って茉莉慧を見つめた。
「頼む.......。」
『解りました....でも.....無事に帰ってきてくださいね』
「わかってる」

<スレイプニルコクピット>
「黒龍.....どう出る気だ?.......どのみちこのままでは...埒があかん.次が...勝負だな」
ノイエは息を整えながらもロングライフルにエネルギーを充電し始めた。

再び高まる緊張....動くもの全てを斬り捨てる...そんな気迫が流れる中最初に動いたのは舞姫であった。
「往くぞ!銀の騎士!」
公人は再びスロットルを全開にし再び高Gの中に身を投じる公人であったが襲い来るのは今までとは比べ物にならないGだった。
一方ノイエも荒れた息を整え終え瞑目してその時を待っていた。
「来たか....今度こそ外さん!」
ノイエは静かに瞼を上げると再びスロットルを全開にし...突撃を開始した。
両機の距離は再び一気に縮まり初撃のような展開が再び繰り返され様としていた...しかし己の全てをかけた二人の攻撃は初撃とはまるで違う結果を生み出した。
「そこだ!!!」
ノイエはスレイプニルのライフルと兼用になっているスピアから必殺の一撃を繰り出す、その一撃は今度こそ舞姫を貫いたかに見えた....しかし舞姫は貫かれた瞬間ノイエの目の前から掻き消えた。
「残像!!しかし!!!」
舞姫が消えること自体はノイエの予測のうちだった、ノイエは慌てることなく次の瞬間にはライフルのエネルギー粒子を拡散させた。
その拡散ビームは舞姫に多少の傷を負わせることに成功してはいた....だがしかし、そこでできた隙はあまりに大きかった。
「これで...終わりだ!!!」
公人の叫びと共に舞姫は光刃を一閃させる、その刃は誤たずスレイプニルを切り裂いた。
「み...見事だ...黒龍........」
ノイエは機体と共に爆散............こうして長きに渡る二人の因縁の戦いについに終止符が打たれたかに見えたが実のところそうではなった。

<舞姫コクピット>
『やりましたね!兄様!!.......兄様?』
勝利した公人を讃える茉莉慧..........しかし
「茉莉慧....」
『はい?』
「こいつは.....舞姫(マキ).....なんかじゃ.....ない」
『何を言ってるんですか?兄様??』
怪訝な茉莉慧に青い顔をした公人の独白は続く
「こいつは.....魔騎士(マキシ(マキシム))だ......」
唇の端から赤い血を滴らせながら公人はコクピットの中でガクリと首を折った。
『兄様?.....兄様?......兄様!!!!!!!!!!』
コクピットの中には公人を呼ぶ茉莉慧の声だけが響いていた。





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あとがき
ZEEK :四拾九話です
茉莉慧  :えっと・・・・・どっちが勝ったんですか?
葵    :機体性能だけなら舞姫・・・でも決着はつかずって所かしら?
ZEEK  :まぁそんな所だね
詩織   :無難といえば無難っぽいですわね
茉莉慧 :ところで............私の口づけは..........
ZEEK :ニヤリ..........教えてあげません♪
葵    :.........決着がついてない地点で無効という線が濃厚ね
ZEEK :ってことで次回もやってやるぜ!!!(シュタッ)
葵    :それはそうと作者は感想に飢えてるらしいわ.....できたら”読んだよ”だけでも言ってあげると助かるわ
茉莉慧 :御意見御感想をお待ちしてます♪









続く?