<大和医務室>
「ここは......」
公人は混濁した意識の中、目を覚まし周りを一瞥した。
(医務室・・・・・・だが俺はテスト機のシミュレーションで内臓を破裂させ・・・・・・ん?シミュレーション!)
「気がついたようね?」「なんだ・・・・・葵か・・・・・・・・・・。」「あら?なんだとはご挨拶ね・・・・大事な妹を泣かせて、なおかつ心配して付き添ってた婚約者に対する最初の反応はそれかしら?」
心配してやってきた自分に対するあまりといえばあまりにそっけない反応に葵は笑顔を引きつらせた。
「いや・・・・・自分がどうしてここにいるのか・・掴めないのだ・・・・・・・・すまんが説明してくれると・・・・助かる。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」「どうした?葵?」
公人は覚醒しきってない意識であった為自分が何を言ってしまったのかどうして葵が頭を抑えながら肩を落としたのか理解できなかった・・・・・・・いや理解できていたら決してこのような事は言わなかったであろう・・・・・・彼はこの部屋の責任者の次の発言で自分の失敗を思い知った。
「説明いたしますわ♪美華ちゃん・・・あれ持ってきてくださる?」「はいです♪ただいま〜〜♪」
「い・・・・石原・・・・・・・(汗)」「じゃっ・・・じゃあ私、職務に復帰するわね・・・・公人も大丈夫そうだし」「おい!!葵!!まて・・・待ってくれ!!」
詩織の悪夢の宣言と嬉しそうな美華の返事をBGMに顔を青くした公人は慌てて出ていこうとする葵を引きとめる事が出来きず、痛いほど眩しい笑顔をしている詩織に一言告げるのだった。
「病み上がりだ・・・・お手柔らかに・・・頼む」




















少女艦隊戦記
エンジェリック・フリート
第五拾話 ”襲撃”



<3時間後 大和医務室>
そこにはげっそりと疲れ果て燃え尽きている公人と満足げに微笑む詩織の姿があった。
詩織は美華が何処から持ってきたホワイトボードと個人端末のPOPウィンドウを駆使し3時間に渡って説明を続けたのだった。
「・・・・・・・・・・・・・つまり俺と銀の騎士の脳を端末に見立ててほぼ100%に近い仮想現実(ヴァーチャル)空間を作り出しシミュレーターというよりもリアルすぎる夢を見せる事で機体の強度計算から剛性、果ては性能トライアルまで一気にやってしまったって事だな?」
「ええ♪」「確かにリアルだった・・・・・・・・内臓が破裂して血反吐を吐いた感覚が未だに残っている・・・・・・それで銀の騎士は?」
「ノイエ准将ならまだそこで伸びてますわ♪准将はご自身が爆散する感覚を感じられたんですから・・・・・・・でももうそろそろ目を覚まされるころですわ。」
詩織の冷ややかな視線の先にはカーテンで仕切られた一角があった。
「石原?・・・・・お前・・・・・・・。」
「あら・・・・茉莉慧ちゃんのくちづけを奪おうとした不埒物ですもの・・・私が歓迎する理由なんてありませんわ♪」
「先輩怖いですぅ〜」
詩織らしくない冷気を纏った毒舌にあたったのか美華は顔を少し青くする。
(あちゃ〜〜葵の陰で目立ってないが石原も茉莉慧の事を実の妹のようにかわいがってたんだよな、石原は一人っ子だったからな・・・・・銀の騎士よ・・・・今度の件でお前が敵に回した人間は・・・皆厄介だぞ)
「酷い・・・・・・言われ様ですな・・・ドクトル」
「騎士様が言い訳とは・・見苦しい限りですわ」「石原...」「公人さんは黙っててくださいましね?」「わ・・解った」
詩織の有無を言わせぬ剣幕に公人はただ黙って頷くだけしかできず・・ただ背中に冷たい汗が滴るのだけを感じていた。
(時々・・石原が本当に技官なのか疑いたくなるよ・・・・このプレッシャーはとても技官のものじゃないぞ)
「ふっ......敗残の身だドクトルが言わんとする事は言われなくとも解っているつもりだ。」
「まぁ・・・それなら話は早いですわ♪」
自嘲じみたノイエの一言に詩織はおよそ似つかわしくない妖艶な笑みを浮かべる、妖しいまでに艶やかな笑みに二人の男は知らず知らずのうちに生つばを飲み込む。
((ダメだ・・・騙されてはダメだ!目の前にいるのはメフィストフェレスも裸足で逃げ出すマッドサイエンティスとなんだ))
二人がその妄想を打ち払おうとした時、救いの天使が医務室に舞い降りた。
「詩織さん、兄様が気がついたって葵姉さんに聞いてきたんですけど・・・。」
「あら・・・茉莉慧ちゃん、ダメダメなお兄様を心配してくるなんて・・本当にやさしい娘になりましたわね♪」
「「「ふぅ」」」
茉莉慧が医務室に入った瞬間室内の空気は一変し詩織も先ほどとは打って変わって花が咲き誇るような微笑に変わる。
それと同時に安堵のため息が3つ・・・ほぼ時を同じくしてこぼれた。
((お・・・女は怖い))
「あれ?兄様・・・どうかなさったんですか?」「いや・・・なんでもない(助かったぞ・・・茉莉慧)」
「でも本当に兄様って無鉄砲ですよね,いつも後先考えずに突っ込んで葵姉さん気苦労が耐えないわ」
「おいおい・・・・アイツだってそれくらいは覚悟のうえさ」
「限度があります!」
「フロイライン、それくらいにしてあげてはもらえないか?今回の件に関しては私にも責任がある。それとは別にフロイラインには今回色々ご迷惑をかけてしまい申し訳ない、この埋め合わせはいずれ折をみてさせて頂きたい。」
「ありがとうございます、でも私の事はおきになさらなくて結構ですよ、でもあえて苦言を申し上げますれば准将もクリームさんがとても心配してましたよ?」「うぐっ」
頬を膨らましながら公人を怒る茉莉慧をほほえましく見ていたノイエが仲裁に入るがあえなく撃沈される。

<ラグナロク大艦橋>
大和の医務室とは裏腹に5分ほど前から緊迫した雰囲気に包まれていた。
「先行哨戒機より連絡!艦影見ゆ!艦隊より1時方向距離198万宇宙キロ!」
「ラダールの反応はどうか?」
クリームの報告に現在艦隊最先任上級仕官であるフェサルーンは指揮官代理としてトリノに指示を出していた。
「超時空電探に反応有、IFF(敵味方識別信号)を確認、帝国軍近衛艦隊、旗艦”ザイドリッツ”以下、”ジークフリート”、”フォン・モルトケ”、”ドイッチェラント”、”シャルンホルスト”、”アドミラル・レーダ”、”ケーニヒ”、”グローサー・クルフュルスト”、”マルクグラーフ”、”クローンプリンツ”...近衛艦隊総出撃のようです。」
「大和の方はどうか?」
『北林君....どうか?』『此方でも電探に反応を確認、IFFを確認、帝国軍近衛艦隊、旗艦”ザイドリッツ”以下、”ジークフリート”、”フォン・モルトケ”、”ドイッチェラント”、”シャルンホルスト”、”アドミラル・レーダ”、”ケーニヒ”、”グローサー・クルフュルスト”、”マルクグラーフ”、”クローンプリンツ”...』
『艦隊司令代理、聞いての通りです。』
「了解...どうやら味方のようだ」
ZEEKの返事にフェサルーンはやっと緊張の糸を解いた。
『しかし...なぜこんな所に近衛艦隊が.....司令代理は何か聞いておられますか?』
「いや....此方も近衛艦隊がこの付近に展開しているという情報は得ていないし演習中だという話も聞いていない。」
ZEEKとフェサルーンは互いに肩をすくませると溜息をはきつつ同じ結論に到達した。
『では油断するわけには行きませんな。』
「そういうことだ。」

<30分後 ラグナロク大艦橋>
「近衛艦隊を最大望遠で確認」
「メインパネルへ投影せよ」
「了解」
肉眼で艦影を捉えたトリノはフェサルーンの指示の元、大パネルへ艦影を投影した。
「クリーム、ザイドリッツへ通信を入れてくれ。」
「了解です、此方帝国軍黄泉方面艦隊旗艦ラグナロク、ザイドリッツ応答願います、此方帝国軍黄泉方面艦隊旗艦ラグナロク、ザイドリッツ応答願います.................艦長!応答がありません!」
「発光信号でも連絡しろ、ありとあらゆる手段で連絡をするんだ。」
(おかしい..........確かにあの艦はザイドリッツ......ザイドリッツなのに何かが違う)
トリノはフェサルーン達の声をBGMに思考をめぐらしながら。艦影をもう一度確認をしていた。
(ちょっと待って!......何でザイドリッツにゲイオボルグ(旧式CIWS)が?.....あれは1年前にミストルテイン(新式CIWS)に換装されたはず...まさか......やっぱり....他の艦もゲイオボルグが搭載されてる......とすると)
「艦..司令官代理!」
「なんだ?」
「接近中の艦隊は敵艦隊です!」
それは敵艦隊の襲撃を意味していた。




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あとがき
ZEEK  :五拾話です
葵    :言い訳位なら聞いてあげるわよ?(^^#
ZEEK  :あの.....その......
詩織   :コミケの準備とその後の左手の負傷......解らないでもないですけれど
茉莉慧 :やっぱり........許せませんよね
ZEEK :....................................すまん
葵    :次回は早めに更新する事ね
ZEEK :くっ........次回もやってやるぜ!!!(シュタッ)
葵    :それはそうと作者は感想に飢えてるらしいわ.....できたら”読んだよ”だけでも言ってあげると助かるわ
茉莉慧 :御意見御感想をお待ちしてます♪









続く?