<ワルキューレ・ラミル少佐機:コックピット>
もう・・・回避も反撃も間に合わない、ラミルに出来る事は、顔を背け、インパクトの刻を待つくらいだった。
1秒...2秒...おかしい.....来るはずの死の衝撃が来ない。
ラミルが恐る恐るモニターを見る......すると、そこには爆散した敵機と....見慣れぬ銀色の機体の背中が映し出されていた。
『戦闘中は気を抜くな.......これは最初に教えた事項だぞ?副長』
聞き覚えのある声と共に通信ウィンドウが開く、そこには、ここには居ない筈の人間であり、敬愛してやまない上官であるアーダルベルト・フォン・ノイエ准将が映っていた。
「団長!!!!!!」
『それと私の部下なら、最後の一瞬まで諦めるな、戦場で死ぬのは諦めた者だ。....これも最初に教えたな?』
「もっ!申し訳ありません!」
(そうだ.....私はそう教えられた。)
焦りのあまり自らを見失たあげく、戦場の基本を忘れてしまった自分に気が付いたラミルは恥ずかしさで顔が真っ赤になった。
『ふっ.....無事で何よりだ』
「団長..........」
不適に笑うノイエに、こみ上げてくる別の感情に浮かれそうになるラミルであったが、すぐに気を引き締める。
『突破するぞ、1機でも多くの味方を連れ帰るのだ!』
「Ja vohl!!(了解)」


























少女艦隊戦記
エンジェリック・フリート
第五拾四話 ”逆撃(中2編)” 



<30分前:大和医務室>
艦載機隊が発進ししばらくたった。艦内には砲門を開く前の静かな緊張が漂っていた。
その中で一際静かな室内に詩織のキータイプの音が響いていた。
カタカタカタカタカタ....カカカカッカカカカカッカカカカカカ...カタ
「さてとっ......私達も参りましょうか?」
「「???」」
詩織の唐突な発言に、二人の男は詩織の意図が判らず怪訝な表情を返すだけだった。

<15分前:大和第3格納庫>
「「こ.....これは」」
詩織に連れられて、普段使われていない第3格納庫に入った二人は目の前に鎮座する2体の巨神に...半ばあきれていた。
「驚きまして?」
「「ああ....」」
悪戯っぽく微笑む詩織は巨神の前に軽いステップで立つと白衣を翻しながら二人に振り返り...そして高らかに宣言をした。
「こんな事もあろうかと、私がひそかに開発しておいた”プロトタイプ・舞姫”と”プロトタイプ・スレイプニル”、その名も”戦姫”と”フレースヴェルク”ですわ!」
「石原...これを俺達に見せてどう『ピッ......石原君....すまんが悪い予感が当たったようだ』...........ZEEK何事だ?」
詩織の意図を問いただそうとした公人はZEEKの通信によってさえぎられてしまった。
『まずい事になった.......敵艦隊が三式弾を使用した。艦載機隊の3分の1が薙ぎ倒されてしまった。』
「「なに!」」
驚愕する二人、しかし、詩織はしれっとしたもので,当然のことであるように答える.....。
「艦長?......それぐらいの被害はすでに想定済みでしたでしょう?」「ドクトル!」
あまりといえばあまりな詩織の態度にノイエは目を剥き彼女を睨みつけ、締め上げようとにじり寄ろうとした...しかし、ノイエが掴み取る前に公人が手でそれを制した。
公人は見ていたのだ.......詩織のうでが小さく.......震えているのを。
『だからこそ....もう味方に被害を出すわけにはいかんのだ....二人とも出てもらえるか?』
「「もちろんだ!!味方を見捨てるなど俺(私)には出来ん」」
(なんだかんだ言って息が合ってますのね......ライバルって同調しやすいものなのかしら?)
息もぴったりの二人に詩織はひそかに思うのだった。
「石原..........あれは使えるのか?」
「勿論ですわ...ですけれど、いまだ試作品の域を出ていませんの....一回が限界ですわ...そして一回で送り出せるのは1機だけですわ。」
「すまんが判るように せつ.......いや...なんでもない.....ドクトル非常時だ...こんな時に目を輝かせるのは辞めてくれないか?」
「あら...残念ですね....まぁいいですわ.....准将、簡単にいいますと瞬間物質移送機ですわ。」
「それはすごい......実用化すれば戦術の様相が変わるぞ。」
「だが...まだ未完成なんだ......前回俺はそれで内臓をやられた。」
「その安全性は向上しましたわ.....私が保障いたしますわ。」
「ならば......私に生かせてくれ、黒龍」
「銀の騎士.........」
「あの宙域で生死の間を彷徨っているのは私の部下だ.....一人でも多く助けたい。」
「しかし.....」
『行って頂けますか?...准将』
「ZEEK!!!!!」
『....公人お前には別に頼みたい事があるんだ.....頼む。』
「決まり・・・・だな」
『詩織君、茉莉慧君....あとは頼む』
「『お任せください(な)』」
ウィンドウの先で茉莉慧と隣にいた詩織の答えが心強い。
「....”フレースヴェルク”....でるぞ!回せ!」
「戦姫も出る!回せ〜!」
二人の声を合図に傍観をしていた作業員達の動きが一気に加速する。新たなる翼を獲た二人の戦士が再び戦場に舞い戻るのだ。


<現在:麗風・近衛隊長機:コックピット>
「このコードは銀の騎士..........復活したのね...まぁ私だってこんなときに寝てなんかいないわっ....それにしてもっ....公人はなにをやってるのよ!!!」
雲霞の如く涌いて出てくる敵機にウンザリしつつも葵は敵機を屠り...味方機を一機でも多く安全なところまで逃そうと必死であった。
『お嬢!一体的はどれだけの機体を搭載してるんですかい!!一個艦隊を相手にしてるだけなのにっ....なんだか1個方面航宙軍を相手にしてるような気がしますぜっ』
「サムライワン.....もう少し・・・もう少しだけ踏ん張って...っ.....気が付いてると思うけどっ....銀の騎士がこの宙域に現れたわっ.....っと言う事は公人もどこかに居る筈よ!それに艦長が何かしてくれるわ」
『艦長が?』
サムライワン....坂井中尉は葵に聞き返す。
「公人と艦長.......二人共、もの凄く負けるのが嫌いなのよ........無能じゃないしね」
『がはははっはちげ〜ね〜』
葵がユーモアを混ぜて返事をすると豪快な笑い声とともに爆発の閃光が走る。
「ブラック5...助かったわ」
『お嬢!油断大敵ですぜ♪大和飛行隊長になってから腕が鈍りやしたか?』
「失礼ね!私の腕が鈍ったかよく見てなさい!!!...........秘剣!燕六連!!!!」
戦場を突き進む葵機の周りに艶やかな光の閃りの花が乱れ散る。

<フレーズヴェルク:コックピット>
「蒼き稲妻......いつもながら見事な腕だ......」
『団長?』
部下達を援護しながら戦場から遠ざかりつつある自機のコックピットで一人つぶやくノイエ.....しかしそれは通信を開いていたラミルに聞かれる事となった。
「いや...なんでも無い......何騎.........付いてきている?」
『私を入れて30騎です』
「騎士団の生き残りは.......それで全部か?」
半分以下に落ち込んだ部下達事を想い...ノイエの声のトーンが下がる。
『いえ..........パイロットはまだかなり生き残っております部下達の大半が1乃至2基の脱出ブロックを持ち帰っております。』
「それでも、何とか半数か.........多くの部下を失う事になったな。」
『はい...』
ラミルも沈痛な表情で答える。
「もう...死なせる訳にはいかない!残った者は全て母艦に帰るぞ!!!」
『はい!団長!!!』
自らの漠然とした不安を覆い隠すようにノイエは力強く部下達を激励するのであった。


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あとがき
ZEEK  :五拾四話です
葵    :...........すぐと行ってた割には時間がかかったわね?
ZEEK  :あの.....その......
詩織   :今回は自宅に帰る事すら出来ない状態が続いていたらしいですわ
茉莉慧 :にしても.......”また”続きましたね
葵    :......いつもながら卑怯ね
ZEEK :....................................すまん
葵    :次回は早めに更新する事ね
ZEEK :くっ........次回もやってやるぜ!!!(シュタッ)
葵    :それはそうと作者は感想に飢えてるらしいわ.....できたら”読んだよ”だけでも言ってあげると助かるわ
茉莉慧 :御意見御感想をお待ちしてます♪









続く?